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三津はおうのが持つ酒瓶を丸くした目でじっと見た。折角二人で過ごせるのだから散歩がてらに二人で出掛けたりしないのかと考えていた。
「そうです〜。毎日呑まれてますからね。じゃあ私はこれで。」
あの人がお酒の帰りを待ってますからと笑って,おうのは行ってしまった。
三津にはそれが違和感だった。おうのの背中をじっと見つめていたら,視界いっぱいに入江の顔が映り込んだ。
「どうかした?」
「いやっ!何でも!!」
「あーあれやろ。嫁ちゃんも酒呑みたいんやろ。羨ましいって目で酒瓶見ちょったんやろ。」
「なっ!違うもんっ!」
「別に否定せんでもええやん。久しぶりに呑むか?最近高杉おらんけぇ呑んじょらんかったしな。」
山縣は勘違いしたまんま,にっと笑って三津の頭を撫で回した。https://www.easycorp.com.hk/en/virtual-office
酒が羨ましかったのではないけど,何故おうのに違和感を覚えたのかはっきりと言葉に出来なくて,ここは山縣の挑発に乗ることにした。
「じゃあ山縣さんの奢りね。苦労の絶えない嫁ちゃん労って。」
それを聞いた山縣は一瞬目を丸くしてから声を上げて笑った。
「苦労人な嫁ちゃんの為に買っちゃる。酌もしてやるけぇ覚悟しろ。」山縣の覚悟しろに三津はそれは嫌と首を横にぶんぶん振った。記憶を飛ばされるのは御免だ。
それでも山縣は遠慮すんなとにっと笑い,ずんずん酒屋へと向かって行った。
「あー……絶対無茶な呑ませ方してくるヤツぅ……。」
悲壮感たっぷりに山縣の背中を見送る三津に,入江がくすりと笑って囁いた。
「やけぇ晋作がおらんけぇつまらんのやろ。張り合いがないと言うか何と言うか。」
賑やかさに欠ける。要はそういう事だ。それを聞いたら嫌だ嫌だとばかり言えない。
「ちゃんと傍についとるけぇ今日は有朋に付き合っちゃり。」
そう言って三津の背中を優しくぽんぽんと叩いた。
「九一さんがそう言うなら……。」
「私も久しぶりに酔っちょる三津見たいそ。」
今回は泣き上戸だろうか笑い上戸だろうかとにんまり笑った。
「あっ!馬鹿にしてるん!?」
みんなで私を笑い者にする気でしょと入江に詰め寄ったが,返ってきたのは答えは違うものだった。
「違う違う。可愛い三津が見たいそっちゃ。」
自分で詰め寄ったが,間近でそんなに愛おしそうに微笑まれたら恥ずかしさで動けなくなった。
にこにこ見下ろしてくる入江と近距離で見つめ合う形になった。
「こんな道端で見せつけんなや。」
そこへげんなりした顔の山縣が戻って来て,胸焼けするわお前ら見てるとと悪態をついた。
「そんなつもりないし!はいっ!買い物したら帰りますよ!私はまだ帰って家事があるんです!!」
三津は二人にくるりと背を向けて,ずんずん先を歩いた。分かりやすい照れ隠しに入江はにやにやが止まらず,山縣は欠伸をしながらその後ろをのんびり歩いた。
用事を済ませて屯所に戻った三津はすぐにセツと残りの仕事に取り掛かった。
そこでの会話でおうのに会った話をして,さっき感じた違和感を思い出した。
『やっぱり何か変なんよな……。』
三津は胸の前で腕組みをして眉間にシワを寄せ,目の前ではためく洗濯物を見つめていた。
「その顔どっかの鬼副長そっくりやな。」
「っ!九一さんいつの間に……。」
気がつけば洗濯物越しに入江がにこにこ笑いながらこちらを見ていた。
「珍しいでしょ。お三津ちゃんがずーっとこんな顔で考え事してるの。」
三津の隣りではセツがくすくす笑いながら洗濯物を取り込み始めていた。すかさず入江がそれを手助けして,セツが“あと,うん十年若ければねぇ……。”と呟くのがお決まりになっていた。
親子ほど年の離れた二人のやり取りに三津はほんわかしながらも,どうしても引っ掛かる事を口にした。「高杉さんって出不精ですか?ここまで姿見ないのが変な感じするし,おうのさんもおうのさんで高杉さんの事話すのを避けてると言うか……。」
そんな気がした。三津の印象で高杉は時間さえあれば町を闊歩してる感じだった。あくまで三津の印象だから違うなら勘違いでスッキリする。
だけど,おうのが毎度家でゆっくりしてるとしか言わないのも変な感じがしたのだ。
「入江の役目も楽やないのぉ。」
赤禰は呑むか?と徳利をちらつかせた。入江は有難くと赤禰の隣りに腰を下ろして別にこの役目は苦じゃないと笑った。
「私は三津がみんなを幸せにする手助けを側でして,三津が疲れた時に休める場所でおれたらいいそ。みんなを幸せにして笑っちょるのを見るのが私の幸せやけぇ。」
そう語る入江がすでに幸せそうに笑うから,高杉も赤禰も変わった奴だと笑った。https://www.easycorp.com.hk/en/virtual-office
「私が三津に救われたように三津は桂さんに救われたけぇ桂さんやないといけんのは分かる。」
でも桂がちょっと抜けてるから心配なんだと言う。だからその分を補わなければ。
辛かった過去が少しでも報われるように,三津の過去を自分が包んでやれるようにこれから必死に生きてくんだと入江は笑った。「ちょっと長居し過ぎたけぇそろそろ帰るわ。」
夕餉の時に文から告げられた。あまりにも唐突で広間は一瞬静まった。
「居心地良くてついついのんびりしてもたけど私も実家の母の手伝いあるし。」
「そうですか……。寂しい。」
しょんぼりする三津が捨てられた子犬のように見えて入江と赤禰はその頭を撫で回したい衝動に駆られた。
「また入江さんに連れて来てもらったらいいそ。フサちゃんと待っちょる。」
文は大丈夫大丈夫また会えると三津をぎゅっと抱きしめた。
“あーいいなぁー……”と心の声をだだ漏れにして入江と赤禰が羨望の眼差しを向けた。それを見て文はにやりと片口を上げた。
「文ちゃんそのまま連れて帰るのはやめてね?」
「あら桂様お帰りなさいませ。大丈夫です今回は連れて帰りませんけど,もしまた何かあるようでしたら萩に呼び寄せて帰しません。
それはそうと今日はこちらで夕餉ですか?」
帰って来ると聞いてないですと冷たく言い放った。桂は相変わらず冷たいなと苦笑しながら報告があって来ただけだとその場に腰を下ろした。
「報告?何やまた面倒事か?」
高杉が改まった報告は聞きたくない件の方が多いと愚痴を溢した。
桂からの報告ならば心して聞かねばと全員が姿勢を正して体ごと向けた。
文と三津達もその場に正座して真剣な顔を向けた。
「いや,そこまで改まられると……。藩の命令で改名する事になっただけで……。」
「改名?名前変わるんですか?」
三津が何で何で?と桂を見つめた。
「幕府から罪人として手配されても桂小五郎と言う名の人物はいないと言い張る為の屁理屈だよ。」
「それで何て名前なん?」
幾松が興味津々に聞いた。変な名前なら笑ってやるとすでににやにや笑っている。
「木戸貫治。」
「ふっ!似合わん。」
「分かってるよ。私だって慣れないしやだよ。でも藩命だから仕方ないだろ。」
けらけら笑う幾松に不満げな顔で返した。
「もう小五郎さんじゃないんですか。」
またも三津はしょんぼりしてしまった。別に名前で桂自身の内面が変わる訳ではないが,もう桂小五郎と言う名が存在しないのが酷く寂しかった。
「慣れるまで戸惑うと思うが呼んでるうちに慣れてくるから……。」
「嫌や呼びたくない。」
珍しく三津が拒否してぷいっとそっぽを向いた。それには誰もが目を丸くして不貞腐れた子供のような三津を見つめた。
「三津さん別に名前変わるなんて珍しい事やないぞ?」
高杉がそう言っても三津はむくれたままだった。「そうやで?主人も通称は義助とか色々あったし吉田さんも栄太郎やったし。」
文もそのうち慣れると言うが三津が泣き出しそうになってきたからそれ以上言葉をかけるのをやめた。
「フサは姉上の気持ち分かります。私も兄上の改名時には泣いて困らせました。兄は兄で変わりないのですがそれでも大好きな兄ではなくなってしまった気がして嫌なのです。
兄上はいつも通りの兄上でしたが私には別人に思えました。姉上も戸惑ってらっしゃるのですよね?」
フサの言葉に三津はぼたぼた涙を零した。
「分かります分かります。あっちでフサと一緒にお話しましょう。」
フサは三津の手を取って広間から連れ出した。
しばし無言でお茶を啜った。
話し合いなんてどうでもいいな〜なんて思うくらい和んでいた。
「三津さん昨日はすまんかったな。驚かせるつもりはなかったんや。」
高杉の方が沈黙を破った。視線はずっと前に向けたままやけに静かな声で言った。
「こちらこそごめんなさい。止まってちゃんと話聞いたら良かったんですけど。」
その時は気持ちに余裕がなさ過ぎたと自嘲した。https://www.easycorp.com.hk/en/virtual-office
「そりゃ会って間もない男に嫁になれ子供産めって迫られたら怖いわな。
今日も会えんと思っちょったけぇ朝見つけた時には体が動いちょったそっちゃ。」
「まぁ……それでこそ高杉さんなんでしょうけど。
それと私は高杉さんの奥さんにはなりませんからね!」
「やろうな!でも三津さんは俺の嫁になるのが一番しっくりくるぞ?
桂さんの嫁には何か物足らんが俺にはちょうどいい。」
『高杉さんにちょうどいいって何なんや……。』
身長だろうかとちらりと横目でその横顔を見た。
高杉は周囲の殿方に比べればだいぶと小柄だけど,三津からすれば高過ぎず低過ぎずで確かにちょうどいい。
『それに何で似合わん!って言わんと物足りんって言わはったんやろ?気ぃ遣われてる?』
どっちにしろ不釣り合いと言われてる事に違いはない。
それは三津にとって永遠の悩みどころ。
『間違いなく小五郎さんにお似合いなんは幾松さんみたいに綺麗な人やし,サヤさんみたいにおしとやかで気が利いて頭も働く人で……。』
気にしないようにしているけど考えてしまえば心はズキンと痛む。
自分には美貌も色気も落ち着きも賢い頭もないし,要するに何にもない。
『今朝も小五郎さんに呆れられてもたしな……。』
「三津さん?」
「え?えっと……何でしたっけ?」
すみません聞いてませんでしたと情けない顔で笑った。
「うーん……今日は休んじょった方がええぞ?普段から打ち込まれたりして衝撃に慣れとる俺らとは違って三津さんは軟な女子やけぇ。
部屋戻って寝とき。俺は散歩にでも行くけぇ。」
高杉はちゃんと休めよと言って歯を見せて笑い,そのまま姿を消した。
『自分からお話しよって言ったのに申し訳ないな……。』
三津は湯呑みを片付けて仮自室に戻ることにした。
だけどその足はとある部屋の近くで戻る事を躊躇した。何をしてるんだろうなぁ自分はと苦笑してまっすぐ仮自室へ行こうと決意した時,通り過ぎるつもりだった部屋の戸が開いた。
「何で入って来ないんです?」
「別に入江さんに用事はないんで……。」
視線を彷徨わせながらしどろもどろに答えるのを見て入江の口角は釣り上がる。
「でも私は三津さんとお話がしたいんで。」
そう言って手招かれた三津は吸い込まれるように入江の部屋に入って行った。
それを吉田が陰から見ていた。
「晋作に何言われたんです?元気ない。」
「やんわりと小五郎さんとは不釣り合いって言われました。」
入江と膝を突き合わせてふてぶてしく答えた。
「それでまた自分と誰かを比べて卑下したんですか。
比べなくてもいいのに。」
すると三津の目が潤みだして,そこから涙が溢れるのを堪える表情を見せた。
「そりゃ幾松さんには幾松さんの良さがあるでしょうけど,それと同時に三津さんには三津さんにしかない良さがあるんですよ?
みんなその良さに惹き付けられて側に集まって来るんですから。」
「……入江さんはやっぱり先生ですね。その諭すような言い方がそんな感じ。
気にしないようにはしてるんですけど,やっぱり周りから見れば小五郎さんにお似合いなのって幾松さんみたいに綺麗な人かサヤさんみたいなお淑やかな人なんやろなぁって。」
「でもみんな三津さんが好きです。稔麿も玄瑞も私も。貴女の方が好きです。
たまには稔麿にも甘えて来なさいよ。一番近くで貴女を見てきたのも稔麿だろうし。」
入江は喉を鳴らした。そして穏やかな顔で煮え切らない様子の三津を見た。
「とりあえず部屋で休みます。高杉さんがおでこぶつけてるから休んでた方がいいって気遣ってくれたんで。
その後で時間があれば話に行こかな。」
「そうしなさい。それと痛むようなら玄瑞の所にも行きなさいね?」
「分かりました。じゃあこれで。」
立ち上がって戸を開けようと入江に背を向けた時,強い力で引かれて体は入江の腕の中。
驚いて顔を上げればもう口は塞がれていた。
唇を優しく触れさせながらも強引に舌が割り込んでくる。強引な癖に中で絡め取ろうとする動きは繊細で優しい。
誰かに気付かれたら……。と言う焦りさえ溶かされてくような口付けだった。
煩わしそうな声と共に三津の体は放り投げられた。
「ん!?」
ふわっと浮いた感覚もほんの一瞬,次には草むらに体が沈んだ。
激しく体を打ち付けてと,ガサガサと音を立てながら三津は転がった。
『痛い……息が……。』https://www.easycorp.com.hk/en/virtual-office
脳が揺さぶられくらくらする。背中を打ったせいか上手く呼吸も出来ない。
「お前みたいな奴がどうやって桂先生に取り入ったんだか。」
藩士はうつ伏せになった三津を足で転がして仰向けにした。
見上げた空には白々と光る月。川のせせらぎが耳に届いた。
「先生もどうしてこんな小娘を庇うんだ。土方の女に間違いない,薄汚いアイツにお似合いの女だ。」
「正直に答えろ,先生に取り入って我々の情報を聞き出し,それを土方に方向しちゃあ褒美に抱かれてたんだろ?ん?」
髪を掴まれ顔を突き合わせられた。
『そんな訳ないやん…。』
三津は力無く首を横に振った。信じてもらえないのは分かってる。
「どっちにしろ生かしちゃおけねぇよ。お前は邪魔でしかない,俺らにとっても先生にとっても。」
男はすらりと刀を抜いた。「んーっ!!」
激しく暴れてもがけば,肩を押さえつけられた。
刀が振り上げられたのを見て三津は覚悟を決めて目を閉じた。
ヒュンッと空を切る音が聞こえたがあれば,
『……あれ?』
どこも痛くなかった。
目を開ければ刀を納めながら,男が卑しい笑みを浮かべていた。
「殺す前に楽しませてもらうか。」
男が斬ったのは両足を縛っていた縄。
解放された両足を持ち上げて,間に体を割り込ませた。
「犯されて無惨に棄てられた自分の女見つけたら,どんな顔すんのか楽しみだな。」
「案外使い捨ての女かもな。土方ならやり兼ねねぇよ。」
冷たい手で太ももをなぞられ,三津は吐き気に襲われた。
この濁った目で笑う奴を見るのは何度目だろう?
『こんな人らに汚されるぐらいやったら…。』
死んだ方がマシだ。
持ち上げられた足をばたつかせ,覆い被さろうとする男の顔面を蹴った。
「いって!!このクソガキ!!」
その形相は土方以上の鬼。
鬼になった顔から景色が入れ替わって草むらになった。
『……あ,痛い。』
左頬に鈍い痛み。そこで初めて殴られたと気付いた。
ぼんやりしていると両足を持って引き摺られた。
『あぁ…またや……。』
二回目の体が宙に浮く感覚。
バシャーンッと音を立てて三津の体は水の中に。
川はそれほど深くないのに,手を縛られてるせいで上手く体制を立て直せない。
「苦しみながら死にやがれ。」
もがきながら流されて行く三津を見ながら鼻で笑った。
『このまま死んでまうんやろか。まだやらなアカン事あったんやけど…。
でも,最期に桂さんに会えただけでも良かった……。』
三津は浮き沈みを繰り返す体を流れに預けて力を抜いた。
「三津っ!!」
『あ,もう幻聴……。』
新平が呼んでると思った。
「三津っ!!」
今度は体が引っ張られた。
口を塞いだ布が乱暴に外され,三津の肺は一気に空気で満たされた。
「げほっ…!!」
飲み込んでしまった水に咽せながら,さ迷っていた焦点を徐々に定めていく。
「しっかりしろ!!」
「吉田…さん?こんな所で偶然ですね。」
三津は青白い顔で安堵の笑みを投げかけた。
「……大馬鹿者。」
吉田は舌打ちをして三津を岸に引きずり上げた。
すぐさま手の縄を解き,氷の様な体を抱き締めた。三津の体はガタガタ震えて,感覚を失った指は全く動かない。
「吉田さん,これなら帰っても怪しまれんでしょ?」
三津が笑うのを見て吉田は唇を噛んだ。噛みきってしまう程強く噛んだ。
「そんなに新選組に帰りたいか…。」
「……悪いが、床を用意してくれないか。今宵は眠れそうな気がするんじゃ」
吉田の言葉に、与三郎は目を丸くする。
「ほう……珍しいですのう。直ぐにご用意しますけえ」
──繊細で神経質なこの方が、こねえな事を言うなんて京に来て初めてのことじゃ。一体何があったのやら。
忠義に厚い与三郎は、https://www.easycorp.com.hk/en/virtual-office 何かがあったのだろうと内心勘繰った。運の悪いことに、近々自身は新撰組へ間者として入隊しなければならない。つまり、おかしな人物が
「
「へ近付いたとしても始末が出来ないのだ。
何も無ければ良いが、と小さく息を吐く。
また一方で、夜も更けた頃。八木邸の二階の小窓から月を眺める者の姿があった。
「……吉田、栄太郎さんか」
窓の桟に両肘をつき、手のひらに顎を乗せながら小さく息を吐く。そっと目を瞑れば瞼の裏には昼間の出来事が浮かんだ。
『……君、この刀。もしかして、"薄緑"か』
その言葉に続いて、吉田の素肌を思い出してはみるみる顔を赤らめる。
「って、何を思い出してんのッ」
記憶を手で払うように動かすと、火照った頬を鎮めるように手の甲をそれへ当てた。
──それにしても、まさか薄緑を知る人が現れるなんて。
妖刀だと言われても、ただの御伽噺としか思っていなかった自分がいる。だが、それを知る……それも似たような物を持つ者現れたことで一気に信憑性が増した。
桜花は左胸にある痣へ、寝巻きの上から手を当てる。
『……とにかく、この痣は妖刀を持つ者の証なのではないかと思う。先程、追い掛けられた時にこれが疼いて仕方が無かった。……もしかすると、引き付けられたのではないかな』
確かに吉田の言う通りに、出くわす直前にきゅうっと痛んだ。
「まるで、磁石みたい」
二人だけの秘密のようだと胸が高鳴る。
「……また、会いたいな」
無意識のうちにそうポツリと呟いては、ハッとした。何を言っているのだと首を大きく振る。
──何で女みたいなことを思っているんだ、私は。今は男として生きなきゃいけないのに。馬鹿馬鹿しい。
早く寝ようと床につくと、腕を額の上へ乗せた。寝心地が悪いのか、ごろりと横へ向く。
目の前の壁を見詰めながら、ゆっくりと眠りが訪れるのを待つ。
──そうだ、藤婆なら刀のことを何か知っているかも知れない。
許可が降りれば会いに行ってみようと思いつつ、重くなった瞼を閉じた。 幾日か経ち、漸く土方から遠出の許可を得た桜花は藤の元へと訪れていた。その供にと宛てがわれたのは、内密に見張り役となっている沖田では無く斎藤である。沖田は巡察の隊務があるため、非番だった斎藤へ白羽の矢が立ったのだった。
「まあ、桜花かい。心配していたんだよ」
藤は桜花の来訪を喜び、暖かく迎える。居間へ通され、温かな湯気の立つ湯呑みが前へ置かれた。
「……で、今までどうしていたんだい。隣のお侍さんは?」
「色々あって、新撰組で使用人として働かせて頂いています。こちらの方は副長助勤の斎藤先生です」
「新撰組……」
その名を口にした途端、僅かに藤の声音が強ばる。大方、市中での噂を聞いているのだろう。
桜花は斎藤の横顔を盗み見たが、この様な反応は慣れていると言わんばかりに眉ひとつ動かしていなかった。
「藤婆、新撰組の皆さんは噂よりも良い人達ですよ。剣術に明るくて、真面目な方が多いです」
「そうかい。私も江戸の出だからね、そこまで悪い印象は無いんだ。そこのお侍さん、江戸者は京に住みにくかろ?」
一言も話していないのにも関わらず、藤は斎藤を江戸から来たと見抜く。驚いたような表情をしながらも、斎藤は視線を合わせた。
「……確かにやりにくいと思うことはあります。ですが、物見遊山で来た訳では無い故。ただ務めを果たすのみ。……失礼ですが、江戸のどちらから?」
「……